どっちが ぶきっちょなのなやら
                〜お隣のお嬢さん篇
 


異能の関係で布面積が多いものを ついまとうだけで、
普段着までも漆黒のゴシック調にとこだわってはいない。
むしろそれだと 冷めた雰囲気も相俟ってのこと、随分と目立ってしまうので、
人の目が集まってしまって身動きがとれなくなり不自由なこと この上ない。
なので、やや童顔であることをベースにし、
度の入ってないアイウェアを掛けてみたり、
冬場ならストールぐるぐる巻きになってみたりと、
うっすら流行も取り入れつつ、
おおむね文系女子大生風のいで立ちをすることが多い。
鋭角的な方に寄せての理系風でもよかったが、
それだと刃のごとき鋭利な雰囲気が強まってしまうので、
やはり目立ってしまうぞとは、そちらも正統派の装いで仕置きに出られる中原さんからの助言だ。
大人しめ文系女子の恰好で、しかも供もなくの漠然とした一人歩きは、
それが繁華街であろうとなかろうと
此処ヨコハマでは危険極まりない所業なことは重々承知。
ただ、どんな装いをしていようと中身はマフィアの禍狗姫なのであり、
数人がかりで付け回されの、人気の少ない場末や路地裏に引きずり込まれようと、
数刻後には連れ込まれた側の少女が
細い肩にかかる髪の先を優雅に指先で払いつつ、
平然と明るい街路へ無事なまま戻って来るだけのお話で。
目を付けた側はといやぁ、
現場の片づけ込みの後始末をと呼ばれた処理班が
馬鹿な奴らだ、だがまあそりゃあ別嬪なお嬢さんへ見事に化けていなさるからなぁと、
半分くらいは同情しもって、マフィア御用達の共同墓地まで送ってやるまでのこと。

 「まあね。
  同業者ならあの程度の偽装なんて問題なく見破って、
  無難に避けて通るはずだから。」

まだまだ素人のくせして何をどう勘違いしてか
中途半端にいきがってる馬鹿どもの粛清にもなっているので、
そこは非番ならでは社会的な貢献をしていると思やいいなんて。
マフィアの幹部である中也嬢が言うならともかく、
すっかりと真人間となったはずの人物が言うものだから

 「……太宰さん。」
 「こんにちは。似合っているよ、そのジレとスカート。」

腰下丈のジレと、同色同素材のプリーツスカート。
トップスはやや肩先が余った形の切り替えになっているデザインブラウスで、
小さめの丸襟なところといい、一見それは大人しげな装いなだけに、
初夏というこの時候にもかかわらず そうまで着込んでいるその上に、
華奢で さほど上背もない見た目の彼女の何処に、命を喰われようほどの脅威を感じようか。
むしろドスを利かせて声掛けただけで
すくみ上がって言うことを聞こうよなんて大きく勘違いしたまんま、
その大層に着込んでいた衣類が変化(へんげ)した黒獣に切り裂かれ、
失血多量により意識を失くした身を、
被害者になり損ねた少女の手により マフィアの片づけ班へ引き渡されているところまで、
余裕で察しているらしい美女がいつの間にか現れており、当の少女へとそれはあでやかに笑う。

 一応はこそりとした仕置きを為した少女へと
 “見ぃつけた”なんて言いたげな余裕のお顔のまま

新緑も目映い街角の手前、そんな雑踏の賑わいを背に負うて、
路地裏に立つすらりとした姐様、ようよう見やれば彼女自身も判じ物みたいな様相で。
深色の髪はまとまりが悪いまま背中まで伸ばされており、
あんまり身を構わない しゃれっ気のない人かと思えば さにあらん。
印象的なまでにぱっちりとした双眸に、表情豊かな口許は瑞々しく。
ほんのりと化粧もしてはいるが、そもそもの造作がずば抜けて端正。
知的に冴えて凛と溌剌、屈託なく笑うお顔は人好きのしそうな朗らかなそれだが、
愁いを滲ませた横顔が ふと打ち沈んで伏し目がちになろうものなら、
切なる余情が匂うような美貌に魅惑の紗を掛け、
視野に収めてしまった存在の心持ちをそりゃあ容易く鷲掴みにすること請け合いという恐ろしさ。
そうとまでの美人様であり、
且つ、モデルのように背も高く、腕脚もすんなりと嫋やかに、
着やせするのか胸乳も豊かで、
所作にも表情にも知的な品があって…と女性としての蠱惑に満ちたご婦人でありながら、

 「そんなに着込んでちゃあ暑いだろうに。」
 「貴女にだけは言われたくないです。」

相変わらず、シャツの襟元鎖骨回りや、袖をまくった両の腕へ
白い包帯をぐるぐる巻きにしているところが何とも痛々しい見栄えだが、
治療中の負傷のためのものじゃあないと事情が通じるものには
暑くないのか、一枚多めに着ていることになるんだろうにと、
そっち方向で呆れられておいでなのもお馴染みのお人。
今日は出社日なものか、砂色の長外套に内衣とシャツ、セミタイトなスカートにハイヒールという、
このところの街角でようよう見かける出で立ちでいるが、
それにしては…仕事なら補佐として連れ立ってることが多い白虎の少女が一緒じゃあない。
まま、あの人間凶器の中也の相棒として前線に出ていた身でもあるので
身ごなしの鮮やかさや勘の良さは素晴らしく、不意打ちに襲われても問題ないのだろうが、

 「非番ですか?」

一応聞くと、うぅんとあっさりかぶりを振って見せ、

 「報告書 書くのに飽いたから、気分転換に出て来ちゃった。」
 「〜〜〜〜〜。」

キャリアや内実を想えば、そんな屈託なく言うようなキャラではないでしょうにと、
黒獣の姫が 思わずのこと溜息混じりに薄い肩をがっくしと落としてしまう。
今頃あの眼鏡の理想女史がドッカンと憤怒のお怒りを爆発させているだろうし、
白虎のお嬢さんもあわわと巻き添え食って慌てているに違いなく。
実はマフィア時代も似たようなサボりを山ほどやらかし、
相棒だった中也が代筆者として執務室に缶詰めになった日々だったのを
あの女といやぁといちいち愚痴られていること枚挙の暇ないですよと。
ふっと脳裏をよぎったものの、今更言っても詮無いこと。
そうなのだと判ってしまう察しの良さも含め、それはようよう躾けられている可愛い弟子へ、
ふふーと楽しげに笑みを重ねると、

 「せっかく逢ったのも何かの縁だよ。
   今からデートとしゃれ込もうじゃないか。」

 「〜〜〜〜。/////////」

どう?と小首を傾げて見せて、選んでいいよというよな素振りを見せた御師様だったが、
口が達者なお人だもの、どう言い立てたところで上手に丸め込むに決まっているし、
それ以上に…この御方に異を唱えるなんて選択肢、
よほどの事態でもない限り芥川の方にそうそう生じる筈もなく。
何とも答えないのがお返事となるの、よーしよーしと察してやるのが、
最近のお付き合いの中で太宰が見せるよになった心遣い。

 「じゃあ、今からデートだよ?」

さぁさと促すだけでは収まらず、
逃がしっこないんだからと言わんばかり、するりときれいな手が伸びて来て。
何って入ってないぺたんこのバッグを肩に下げてた年下のカノジョの手を捕まえ、
ダンスへの誘ないよろしく、やさしく引きつつ さあと共に歩み出すのだった。

to be continued.(19.05.28.〜)




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 *女護ヶ島では判りにくそうなので、戻しました。
  微妙に行き当たりばったりな代物になりそうですよ。
  いきなりの暑さにヘロヘロになって何も思いつけなかったけど、
  何か書きたいなぁとさせる文ストってすごい。(何を言うとるのだ…)